「そろそろ、お部屋に戻った方が良いですよ。」


「でも…」


翔太君の背中に手を伸ばしかけた時、


「菜月…?そこで何をしてる!」


「知秋…。」



知秋がこちらに歩いて来るのが見えた。


また怒られてしまう…そう思った私は少し体をこわばらせてしまった。


「俺が下に降りて来る様に言ったんだ。お嬢様を怒らないでやってくれ。」


スッと私をかばう様に翔太君が私の前に立っていた。



「お前が…?」


「そうだ、いつも退屈そうにあの部屋からお嬢様が外を見ていたから、せめて庭の花ぐらい見せてあげたくて…。」


知秋は無表情で翔太君を見ていた。



「ごめんなさい、知秋。私が悪いの……私が!」


「もういい!……菜月、部屋に戻るぞ。」


そう言って、知秋は私の手を引いて歩き出した。



(ごめん。)


翔太君の方を振り返って、口だけで謝った。


(大丈夫。)


たぶん翔太君は、そう言ってくれていたと思う。


彼もまた、口だけで私に言うと苦笑いしながら手を上げてくれた。