先生は真っ白なスケッチブックに絵を描き始めた。
「ねぇ、先生?」
「ん?」
先生は咥えタバコのまま、空とスケッチブックを交互に見ながら返事をした。
「先生さぁ、保健室の先生じゃなくて、美術の先生になったら良かったのにね」
私のその言葉に、短くなったタバコを携帯灰皿に入れた後、クスクス笑った。
「こんな絵で美術教師なんかになれるわけねぇだろ?」
「何で?私は先生の絵、凄いと思うよ?」
「“凄い”だけじゃ、美術教師にはなれないんだよ。こんな絵で美大なんか受験してみろ、いい笑い者だよ」
先生は私を見てクスッと笑う。
「そうなのかなぁ?」
私は素人だから絵や芸術のことは全くわからない。
でも先生の絵は素直に凄いと思ったし素敵だと思う。
「そうだよ。まぁ、でも藤井が凄いと思ってくれたことは素直に嬉しかったけどな」
先生はそう言って、私の頭をポンポンとしてきた。
突然、頭をポンポンとされて体が“ビクン”と跳ねる。
頭をポンポンとされたことと、先生から“素直に嬉しかった”と言われたことが私も素直に嬉しかった。



