「先生?私、怖いの……」
「怖い?」
「先生を好きになればなるほど……先生への気持ちが大きくなればなるほど怖いんだよ……。いつか先生を全てを失うんじゃないかって思うと……」
先生と一緒にいる幸せ。
先生の笑顔。
先生の温もり。
先生の声。
全てを失うのが怖い。
それだったら、もう先生と会わない方が……。
「梨音?怖がることよ……。俺は梨音の傍にいる。ずっといる……。約束する……。だから……だから……梨音……」
先生が私の手をギュッと握り返す。
私は先生の手をそっと離した。
目を見開き、泣き顔で私を見る先生。
私は泣き笑いの顔で静かに首を左右に振った。
「梨音!」
「先生、ありがとう」
私は制服のポケットから保健室の合鍵を出して机に置いた。
「先生?幸せになってね。私は先生と出会って少しだけ強くなった気がする。先生と出会って一歩踏み出す勇気をもらった。だから、ね、先生?私なら大丈夫だから……」
好きだから……先生が好きだから別れる。
先生との幸せだった日々を失いたくないから別れる。
私の選択は決意は間違ってなかったのかな……。
うん、でもこれでいいんだ。
これで良かったんだ……。
私はゆっくり椅子から立ち上がった。
先生は、もう何も言わない。
鞄を持って、保健室のドアに向かってゆっくり歩いて行く。
ドアの前に立って、先生の方に振り向いた。
「先生、元気でね!バイバイ!」
精一杯の笑顔。
私はスライド式のドアを開けた。
ここを出ると、先生とお別れなんだ。
涙が次から次へと溢れ出して止まらない。
先生、バイバイ……。
先生、好きだったよ。