携帯を切って、小さな溜め息をついた時……。
「ただいま」
背を向けていた玄関から先生の声が聞こえた。
突然の先生の声に体が“ビクン”となる。
振り返ると、玄関に笑顔の先生が立っていた。
「お、おかえり……」
いつから玄関にいたんだろう……。
「先生、いつからそこにいたの?」
「梨音が電話してる時から……。声をかけたらヤバいかな?と思って、電話が終わるまで待ってた」
「そうなんだ……」
「何かいい匂いがする。今日の晩ご飯は何?」
「ビーフシチューだよ」
「おぉ!俺、ビーフシチュー大好き!」
「ご飯、用意するから着替えて待ってて?」
「はーい!」
子供のようにはしゃぎながら部屋に上がる先生。
先生は電話の相手が誰なのか聞いてこなかった。
多分、親からだってわかってたはずなのに……。



