「はい……」
気持ちを落ち着かせるように手で胸を押さえた。
『梨音か?』
昨日までの威勢のいい父親ではなく声は沈んでる。
「うん……」
『今、どこにいるんだ?今日は帰って来るんだろ?』
「1人暮らしをしてる高校の友達のとこ。今日も帰らない……」
私は“1人暮らしをしてる”という言葉を付け加えた。
友達の家に泊まってるという嘘をつくのも限界がある。
高校生は親元から学校に通ってるのが当たり前で、親に連絡をしない家出同然の女の子を子供の友達だからって何日も家に泊める寛大な親なんて滅多にいない。
だから親に変な詮索されないように“1人暮らししてる高校の友達”と嘘を言った。
『明日は?』
「明日もわからない……」
『梨音?お父さんもお母さんも梨音のこと心配してるんだ……。気持ちが落ち着いたらでいいから帰って来てくれ……』
「うん……」
『あまり友達に迷惑かけるなよ』
「うん……」
『それから……梨音、昨日は、その……殴ったりして悪かった……』
「うん……」
父親の話に“うん”しか言えない私。
それは口を開くと、私が泣いてることがバレるのが嫌だったからだった。



