私はベッドから出て先生を追いかける。
「先生?」
靴を履く先生に声をかけた。
「ん?」
靴を履き終えた先生がこっちに向いた。
「先生の帰り、待ってていい?」
「いいよ」
先生は微笑むと私の頭を優しく撫でた。
「じゃー、ご飯作って待ってる」
「あぁ、俺もなるべく早く帰るから」
「うん」
「あ、じゃーこれ……」
先生は再びスーツのポケットから財布を取り出して、さっき戻した5000円札を出してきた。
「材料で足りないものはこれで買ってきて?」
「えっ?いいよ……。お金ならあるから……」
「いいから」
先生は私の手にお金を握らした。
お金を握った手に目を落とす。
「それから……。梨音?手、出して?」
「えっ?」
私は視線を先生に移した。
そして、先生の言う通りにお金を握ってない方の手を出した。
先生はキーケースから鍵を外して、私の手の平に鍵を落とした。
「出掛ける時は戸締まり宜しく」
先生はそう言ってニコッと微笑んだ。
「じゃー、行って来る」
「うん、行ってらっしゃい」
「行ってきます」
先生はそう言った後、私の唇に軽くキスをして、仕事に向かった。
“バタン”と閉められたドア。
先生のいない部屋に1人でいるのは初めてで、何だか急に寂しさが込み上げてきた。
右手に鍵、左手にお金を握ったまま、しばらく玄関のドアをジッと見つめていた。