右頬を手で押さえ、父親を見ると、父親は目を見開いて私を見ていた。
そして娘を殴った右手に視線を落とした。
初めて娘に手を挙げて父親は動揺してるんだろう……。
「梨音、ゴメン……」
力無い声で謝ってくる父親。
「最低……」
私はそうポツリと呟いて、床に落ちていたボストンバッグと鞄を持った。
放心状態の父親の横を通り、玄関でブーツを履いた。
父親は何も言って来ない。
「あなた?梨音?」
リビングから母親が顔を出す。
母親の声に我に返った父親は2階にある自分の書斎へ行くため階段を上がって行った。
「梨音?どうしたの!?」
リビングから出て来た母親は私の傍に来て、父親に殴られて少し腫れてる右頬を見てそう言った。
「何でもない……」
「何でもないって、頬が腫れてる……」
「触らないで!」
私の言葉に、手を伸ばし、腫れた頬に触れようとした母親の手が止まった。
私はそれ以上、何も言わず玄関の外に出た。



