「帰るから、離して?」


「嫌だ」



私の腕を掴んでいる手に力が入る。


痛い……。


痛みで顔が歪む。



「先生、離してよ!」



大声を出して、先生に怒鳴りつけるようにそう言って振り返った。



「せん、せ?」



先生の顔を見ると、大きな瞳から涙が流れていた。


唇を噛み締め涙を流す先生に思わず声をかけてしまった。


男が女の涙に弱いように、女も男の涙に弱いのかもしれない。


ダラダラと頬を伝い流れ続ける涙は顎からポタポタと床に落ちてる。


私が振り返ったことで、私の腕を掴んでいた先生の手が少し緩んだ。


先生の手を振り払って、帰ろうと思えば帰れるのに……。


先生から逃げること出来るのに……。


でも私の足は動かなかった。