家の前まで来ると、ピアノの音が聴こえてきた。
車庫に父親の車はない。
接待ゴルフか休日出勤のどっちかだろう……。
「ただいま」
玄関を開けてそう言ったと同時にピアノの音が止んだ。
ピアノ教室の部屋から母親が出てきた。
「おかえり……」
私は母親を見ないように家に上がって、自分の部屋に行こうと階段に足をかけた。
「梨音?」
母親が後ろから声をかけてくる。
無視すればいいのに無視できない私は足を階段にかけたまま止まった。
「今日は家にいるんでしょ?」
「これからまた出掛けるから……。今日も帰って来ないかもしれない」
「誰と、どこ行くの?」
「友達と買い物」
「友達ってどこの?女の子?男の子?」
うざい……。
「どこの友達でもいいでしょ?娘のこと信用してないの?」
私は振り返ってそう大声を出した。
「そういうわけじゃ……」
「生徒さん、待ってるよ」
私はピアノ教室の部屋をチラッと見た。
「私のこと心配する前にさぁ、お姉ちゃんの交友関係を心配したら?」
母親にそう言って、私は一気に階段を駆け上がった。



