体がガタガタ震える。
包丁の先端を喉に当てた。
手が体が震える。
この銀色に輝く鋭く尖った先端をノドに突き刺せば楽になれるのかもしれない。
でも、怖い……。
ものすごい恐怖が襲ってくる。
死にたい……。
死にたいよ……。
でも、でも……。
死にたくない――……。
そう思った瞬間、包丁が手から離れ床を落ちた。
恐怖から解放された時のように体の力が抜け、その場にズルズルとしゃがみ込んでしまった。
ポタポタと床に落ちる涙。
あれだけ死にたかったのに……。
楽になりたかったのに……。
なのに“死にたくない”と、どうしてそう思ったのか自分でもわからなかった。
床に手をついて肩を震わせて泣く私の背中に優しい温もりを感じた。
先生が後ろから私の体を抱きしめてくれてる。
私は体をクルッと反転させ、先生の体に抱きついて子供のように大声を出して泣いた。
先生は私をギュッと強く抱きしめて、私の背中を優しく摩ってくれた。
「もう……死にたいなんて……言わないで?」
声を震わせながらそう訴える先生。
顔を上げて先生を見ると、大きな瞳から涙が流れていた。
「さっきは怒鳴ったりして悪かった……ゴメンな……。
あのな藤井、世の中には生きたくても生きれない人が沢山いるんだ。
その人達は自分が死ぬとわかってても一生懸命、生きようとしてるんだ。
命を粗末にしたらダメなんだよ。
いらない命なんてないんだよ……。
だから、もう死にたいなんて言わないでくれ……」
さっきまで怒っていた先生はいなくて、いつもの優しい先生に戻っていた。