「その足元にあるタンポポも
満開の桜と同じように

春の美しさを競ってるんですよ。
どちらも同じように愛でてあげましょう」

女性は男が踏みつぶしたたんぽぽの
泥を払い折れた茎を直している。

その姿を言葉もなく見つめる男。

だが男は愛想がない。

「何言ってんの?馬鹿じゃない?」

男は照れ隠しなのだろうか
女性に対し冷たい言葉を返す。


その言葉を聞いた女性は
少し悲しげな顔をした。


踏まれたタンポポを
じっと見つめる女性。


「このタンポポは私と同じ。
踏まれて汚れて誰も見てくれない。

そして私はたんぽぽと一緒に
消えていく…」

一瞬驚いた顔をする男。

「今日は4月1日。

あと一週間…
桜が散るころに

私は入院するの。

そして…もう私は
来年の桜は見れないかもしれない…」