「チュラ川に行くって、その辺りは何もなかったはずだが」
「いや、チュラ川に行きたいというより、チュラ川を渡りたいんですよ」

 雷志の言葉を聞いてその男性は右手を顎に添える。

「あそこは今通れないらしいんだ。用事があってみんなチュラ川の向こうに行こうとした人たちがこぞってしっぽ巻いて帰ってきているし」

「チュラ川で何か大変なことがあったの?」

「それがみんなただ渡れないって言うだけで分からないんだよ」
 風稀の質問にも首を傾げながら答えてくれた。

 何にせよ、チュラ川までは歩いて三時間はかかるし、今日は止めておいたほうがいいと思うよと教えてくれる。

「じゃぁ、旅に必要なものを買い集めるか。金もあることだし」
 氷斗が腰に巻いている布に入った金貨をもてあそぶ。

「凄い金額だってことは旅館で支払った時に分かったけど、この金はいったいいくらあるんだろうな?」
 雷志も自分の腰に巻いた金貨を見る。

 まぁ、その辺はあまり気にしなくてもいいかもな。
 そう呟いて歩を進める。

「いい匂いがする! きっと食べ物屋さんだよ、僕おなかすいた」
「まぁ、小腹は空いたかもしれないな。少し覗いてみるか」

 風稀と氷斗が暖簾をくぐる。
 小さな風に乗っていい香りがしてきた。

「いらっしゃい。でも少し夕飯には早いから今は仕込み中なんだよ」

 そう言って顔を出してくれた女性は申し訳なさそうな顔をしている。