雷志を招いた年配の女性は語る。

「この話は今から千年も昔の話。本当かどうか確かめる術はないわ。でも、実際に詳細が記録されて残されている。そしてマインの願いを託された人物もまた実在したのよ。あなた達のようにね」


 雷志と少年は、お互い顔を見合わせる。この地域にはずっと伝わってきていた伝説のようなもの。

 しかし、記憶のない二人には、以前は馴染みのあったこの話もまるっきり信用できないただの昔話のように思える。

 彼らが記憶をなくしてしまった理由、それはこれから起こる出来事に立ち向かうため、失う恐怖を感じないように。

 思い出や、感情が、恐怖に立ち向かうときの邪魔にならないように。


 そして、二度と戻って来られないという事実を忘れるため。


 つまり、記憶を無くしてしまったのではなく、記憶を消されてしまったのだ。

 彼らはもちろん、この伝説を知っている者達も、彼らがどこに行き、何をするのか知る者はいない。

 いつしか、決まった日に必ず選ばれる人物。ある時は一人、またある時は五人、何十年後に起こることもあれば、数百年、誰も選ばれなかったこともある。