「私と姉は共に神の化身です。そのため私たち二人は人の心や行動を容易に操ることが出来ます」

 彼が言うには、興味のないブランドショップに足を踏み入れるよう仕向けたのも、メモ用紙を見つけ、消去させたのも、自分の力らしい。

「無理を承知でお願いしたいことがあります。いや、断られてもやっていただきたいことがあります」

 彼の言う『願い』とは、占い師『セイラ』の行った『裁き』の記録を後世に残すこと。

「私たち化身には、与えられた役目があります。人間の感情をコントロールし、拒むものには裁きを与える。しかし、裁きと言っても、親が子供に諭すようなもので有るべきなのです」


 終始うつむいたままのマインは、『姉のやっていることは、ただの、神の横暴だ』と呟いた。


 信用できないどころか、あまりにくだらない話だと学者は思ったが、もしそれが現実だとしたら…という、未知なる生命についての興味が沸きつつあることもまた事実だった。

「恐らく、こんな話をしていることを姉が知ったら、すぐに私達の命は、亡き者とされるでしょう。ですが、私もまた神の化身。必ずその命は守ります」

 聞けば聞くほど笑い話だった。

 しかし、男が断らず引き受けたのは、様々な神話に興味を持つ、学者だったからだろう。

 学者は知る限りの情報網からあらゆる情報を入手し、一つずつ整理していった。

それは別の人にも引き継がれ、全ての情報をまとめ終わったときには何代目だっただろうか、マインも二百五十歳を過ぎてその生涯を終えていた。