どちらとも無く近付き、視線を合わせる。何かを感じた学者は無言で店を出た後、まっすぐ自宅へ帰った。


 数十分後、呼び鈴が鳴り先ほどの男が顔を出す。


 彼こそが、占い師『セイラ』の弟だった。


 その男が始めた話は、あまりに現実離れしていた。

「姉は、本当に神の化身なんです」

 第一声からして、まともに聞くつもりもなかったが、玄関に立たせたままにするのも悪いと思い、男を招き入れる。

 一人暮らしにしては、手を余しそうな広さのリビングに、びっしりと本が詰まった棚。

 少し開いているドアの向こうに見えるのは、乱雑な机に乗るパソコン。

「申し訳ない」

 リビングのソファに促されて座った男は、深々と頭を下げ謝罪の言葉を口にする。

 玄関に入るや否や口にした言葉といい、今の言葉といい、全く意味が分からない。

「私のことは『マイン』と呼んでくださって結構です」

 唐突に話し始めた『マイン』は、またもデタラメなことを言い出した。