不審死を巻き起こした彼女の弟がまだ六十代だった頃、とある学者の元に一枚のメモ紙が届く。


 『姉、セイラについてのお願いがあります』


 たった一行しか書かれていない小さなメモ用紙を書斎で今一度確認した学者は、小さく破り灰皿の上で灰にした。

 手紙の主は勿論、話題の中心から消えかかっている不信死の容疑者ではないかと疑われている『セイラ』と呼ばれる占い師の弟。

 受け取った本人も、いつそれを手にしたのか判らなかった。

 衣替えのために取り出した一着のコートの胸ポケットに入ったそれを見つけたのは、まだ木枯らしも吹かない秋の始め。

 知り合いに占い師の弟など居ない。悪戯だと判断し、ゴミに捨ててしまう事も可能だったが、男の直感が消去するように訴えた。

 数日後、まるで運命だったかのように、必然的な出会いが二人を呼び寄せる。

 普段外見には全く興味の無かった学者だったが、何がそうさせたのかたまたま視界に入り込んだ店に足を踏み入れた。

 ブランド物のスーツが所狭しと並んでいる店の中では、夜の街で輝いて居るのだろう男性や、宝石を身にまとった年配の男が何着もの洋服を手に、歩き回っている。

 それとは真逆の、ジャケットにジーンズとラフな格好をした学者は、自分の他にもこの店に似つかわしくない初老の男を見つけた。