「おいこら、こんな所で寝られても困んだよ」

 薄暗い店の中。タキシード姿の男が店のテーブルに突っ伏して眠る男に呼び掛けながら近づいていく。

「弱いんだからそんなに呑むなよ…」

 丸テーブルの前に立ち止まり、寝ている青年の肩を揺さぶり始めた。
 テーブルの上には飲みかけのビールジョッキが置かれ、グラスから流れた水滴で一部が濡れている。

「起きろって、酔っ払い」

 何度か体を揺さぶられ、青年はやっと背中を浮かせたが、頭は枕にしていた腕から離れない。

「……っ」

 頭を少し浮かせた後、痛いのか前頭部を右手で抑え眉をひそめる。
 重い瞼を上げようとするが言うことを聞かず、左手で強引に擦った。

 ざわめきが聞こえる店内。その半数以上の客は、その手にビールのジョッキを持って、陽気に会話を楽しんでいる。