「ここよ。凛の居場所。
 凛はホスピスに入院したの。自分の意志で。」

「ホスピス?」

「そう。終末期患者が入院する病院よ。
すでに死期が近く、回復は見込めない患者が入院する病院よ。
痛みや苦痛を取り除いて、安らかな死を迎えられるように入院する病院・・・。


もう、凛の病気はそこまで進行しているし、凛の死は覆らないわ。」

俺は急に恐怖に襲われた。
彼女を失うという恐怖だ。
具体的な話が出てくると妙なリアリティが湧いてきた。

それ以上は考えたくなかった。
考えれば、考えるほど、俺は気が滅入りそうだった。

俺は今すぐにでも彼女に会いたくなった。
彼女が生きている事実をこの目で確かめたい。
そう思った。


「凛は海の見える病院に入院しているわ。
もともとホスピスに入ることはこの2週間の生活の後と、
決めていたらしいの。

貴方と行った海があんまりにも綺麗で、決まっていた病院を変更して、
その海の見える病院に変えたらしいの。

凛の主治医の先生に無理言ってもらって。」


あの海に・・・。

凛がいる。

初めて思いを通じ合わせたあの海に・・・。


「羽琉。忘れないで。
凛はその場所を自分の死ぬ場所と決めたの。

もう一度言っておくわ。あの子の死は揺るがないし、
貴方が言ってどうなるものでもない。



でも・・・。

でも、私だったら、貴方と同じように、
愛する人に傍にいてほしい、って思うわ。


私ではあの子を助けられない。


凛を、凛をよろしくお願いします。」


そう言って坂井は俺に深々とお辞儀をした。
坂井の涙がポタポタと落ちるのが見えた。




俺に何ができるのだろうか・・・。