「坂井。ありがとうな。」

「えっ?」

「感謝してるよ。凛に出会わせてくれて。
 俺も本当に幸せだったから・・・。」
俺は心の中で凛に対する幾つもの思いをこのままにできないと思った。

俺は息を飲み、覚悟の上で、坂井に言った。
「もう一度、凛に会いたいんだ。」

「それはできない。」
案の定、坂井に返された。



俺も譲れなかった。凛に会うために・・・。
「凛から居場所、聞いているんだろ?」


「私でさえも、もう凛には会えないの。これが凛との約束だから。」


「俺は・・・、凛に多くことを教えてもらった。
音楽を愛する心、人に優しくなること、思いやりの心、

 そして人を愛すること。

でも、俺は凛に何も与えられていない。俺が凛に満たされたように、
今度は少しでも、俺が凛の役に立ちたいんだ。」

「死を目の前にしている人の気持ち、考えたことある?」

「えっ?」

「私、一度だけ凛に言われたことがあるの。
お姉ちゃんには分からないって。ひどく荒れた時期があったわ。
普段のあの子からは想像できないでしょ?

そして、私は返す言葉もなく、黙り込んでしまったの。
何を言ってあげればいいのかって、考え込んでしまって。

だって、どんなに自分がその状況に立たされていと考えたって、
結局、その人の本当の思いには近づけない。
気持ちを分かってあげられるのは無理なのよ。

逆に凛の心を傷つけるだけ。


・・・それでも凛に会える?」




「ああ。
確かに俺には気持ちは分からないかもしれない。
その場所に立っている凛にしか・・・。

それに俺が居たところで凛の病気が治るわけではないし、
凛が逆に辛い思いをするかもしれない。

でも、
それでも、
彼女を一人で死なせたくない。


傍に居てやりたいんだ。
最後の時まで・・・。」