「凛は小さい頃から音楽の才能があって、
母にとても気に入られていたの。
私はピアノもバイオリンもまるでだめで、凛が本当に羨ましかった。

いつしか凛も母と同じ歌手を目指すことになって、
母が付きっきりで凛に歌を教えていたわ。
そんな凛に嫉妬したりもしていた。

でも、凛が7歳の時、母が倒れて亡くなってから、
凛の音が消えてしまった。いや、消えてしまったというより、
7歳の幼い子の中での母親の死は本当に大きなものだったのよ。

そして音楽はあまりに凛に母の存在を思い出させた。

それから、凛はあんなに好きだった歌を一度も歌うことはなかった。

1年前までは。

私は、就職が決まってから、すぐに凛を親戚の所から
引き取ろうと思ったんだけど、凛の学校のことや病気の事があって、
引き取るのが遅れてしまったの。

 結局、去年から凛を引き取って一緒に暮らし始めたわ。
あんな事があって歌を歌えなくなったけど、真っ直ぐで素直な子に育っていた。

でも、母のように病魔に侵されてしまい、
彼女はまだ成人もしていないのに命の期限を知らされたの。

それからだった。

凛がまた歌を歌うようになったのは。

たぶん、自分の夢を諦めたくなかったんだと思う。

喉の病気のせいで長くは歌えないけど、歌ってる凛は本当に楽しそうだった。

凛の声、不思議な声でしょう?

聴いているとこっちまで幸せな気分になる。
音楽を愛している事が伝わってくるから。

だから羽琉に曲のイメージを与えられると思った。

凛なら羽琉の止まってしまったメロディを動かせると思ったの。
そして羽琉なら凛の夢を叶えさせてくれると思った・・・。

安易で二人の気持ちを無視したことかもしれないけど、
二人を救える方法はこれしかない、と思ったの。」