「羽琉さんも。楽しいですよ。」
彼女が手まねきして俺を呼んでいる。

少し笑って、
「俺はいいよ。」
と大人ぶったように返す。

彼女はそれが面白くなかったようで、子どものように頬を膨らまし、
こっちへ駆け寄ってきた。

俺に近づくとその綺麗な顔で俺を睨み、
俺の手をひっぱり海に入らせようとした。

俺はもちろん、彼女の細い腕を抵抗することなんて容易かったが、
そうはしなかった。

彼女に手をひかれながら、急いで靴を脱ぎ、一緒に海に入った。

さすがにこの時期はまだ、気温は暖かくても海水は冷たかった。

彼女の手がやけに温かく感じて心地良かった。

二人で足首まで海水に入り足で水を弾いた。

「羽流さん。ありがとうございます。
ここまで連れてきてくれて・・・。ずっと来てみたかったんです。
私の生まれた所には海がなくて・・・。」

そう言って彼女は青く広がる海を見つめていた。






俺たちは弁当を食べたり、犬と散歩している子どもと戯れたり、
日が暮れるまで海で過ごした。


いつまでもここで凛と居たい、そう思えば思うほど
時間が経つのは早かった。