「ああ、歌ってました。

その日、お姉ちゃんが友達から預かってきた犬がいて、
散歩しに公園に行ったんです。

私、気付くと、この曲口ずさんじゃうんですよね。

それにしてもあの日、自分でも早すぎたかな。
って思うくらい早朝に散歩してましたよ。羽琉さん、よく聞いていましたね。」

「・・・。」

「羽琉さん?」

「やっと会えた。」

「えっ?」

「俺、探してたんだ。
あの時、聞いた声。ずっと忘れられなくて・・・。
まさか、凛だったなんて。」

「?」
凛は不思議そうな顔をして俺を見ている。

俺は抑えきれない感情の興奮を自制しながら話始めた。

「あの日、俺は珍しく目覚めがよくて朝飯を買いに行っていたんだ。
道を歩いていた時、聞こえてきた声に耳を奪われた。

すごく綺麗な声だと思った。誰にも真似できないような。
でも、凛、途中で歌うのを止めただろう?」

彼女が頷く。

「それで俺はどうしてもまたその声が聞きたくて、
公園に毎日足を運んだんだ。あの時と同じ時間に。
結局、聞けることはなかったけど・・・。」


「まさかその声が凛だったなんて・・・。」

「綺麗な声か・・・。
嬉しいです。人前で歌う機会がないから、
お姉ちゃんとかお母さんくらいにしか褒められたことなくて。」

「人前で歌うことないの?」

「はい。」

「すごい、いい声だよ。
プロになろうとは思わないの?お母さんのように。」

「いえ、私なんか・・・。」

「いや、君はきっと誰にだって支持される。
一度聞いただけで俺はもうファンになってるから。」

俺は恥ずかしげもなく彼女に素直な気持ちを伝えた。