ゴトッ

 俺は持っていた小説を落とた。

その衝撃で彼女が俺に気づいた。



「あっ、すいません。うるさかったですか?」

「い、いや。」
俺は驚きでそれ以上、言葉がでなかった。





「今の歌・・・。」
俺はようやく状況を理解できてきた。


「Amejinngu gereicuです。
小さい頃母から教えてもらったんです。

私の母、病気で亡くなる前まで歌手だったんですけど、
その影響で・・・。

唯一、母から教えてもらった曲なんです。」



「もしかして、お母さんって結城 恵さん?」
結城さんは10年前に亡くなった歌手だった。
俺はその時、17歳で、その人の曲は一、二曲しか知らなかったが、
当時は人気があった。
若くして亡くなった人だったから印象に残っていた。

「よく知ってますね。」

「ああ、声がとても素敵な人だったよね。」
記憶を辿れば、どことなく凛の声に似ている。


「なんか、嬉しいです。羽流さんが母のこと知ってて。」

「・・・。」

「羽琉さん?」

「凛?」

「はい?」

「2週間ほど前この近くの公園でこの曲歌ってなかったか?」

「えっ?」

「俺聞いたんだ。今と同じ声。あの公園で。」