「でも、やっと謎が解けたよ。
 
 最近は行ってなかったけど坂井はずっと一人暮らしだと思ってたから。
 
 去年に越して来たなら気付かないわけだよ。」

「離婚してから母が亡くなって・・・、
 それから少しでも早く私を親戚の家から引き取ろうと
 お姉ちゃん、一生懸命で。

 私のせいでお姉ちゃんには
 いつも迷惑ばかりかけてしまって・・・。」

今まで明るく話していた彼女が急に寂しそうに下を向いた。

「妹可愛いんだろ。俺は一人っ子だからよくわからないんだけど、
 電話の坂井の話し方、妹が可愛くて仕方ないって感じ。

 迷惑なんて思ってないと思うよ。 

 第一、思ってたらあの性格だから正直にいうだろうし・・・。」

そう言って俺が笑うと、彼女もつられて笑った。

俺はふいに彼女を励ましたくなってキャラでもないくせに
小さなジョークを混ぜた。

なぜだか、彼女の寂しそうな顔は俺にも辛かった。

「お姉ちゃんから湯浅さんのことはよく聞いてるんです。
 才能があっていざって時、頼りになるって。」

「頼りにねぇ・・・。

 まぁ、才能よりはなるか。」

俺は一瞬自分の表情が曇るのがわかった。
だが、彼女に悟られないよう、すぐ立て直した。


「坂井とは付き合いながいからね。
 あいつ男みたいだし、付き合いやすいよ。」

俺はごまかすように笑って見せた。




そして話を濁らせるように俺は話題を変えた。

「湯浅さん、って他人行儀だな。
 羽琉でいいよ。君のお姉さんにもそう呼ばれてるし。

 俺も凛って呼ぶよ。」

いきなり下の名前で呼ぶのはどうかと思ったが、坂井と名字が違う彼女を、
名字で呼ぶわけにはいかなかった。

「はい、2週間よろしくお願いします。

 羽流さん。」

そう言って彼女はまた笑った。

彼女の印象に「よく笑う明るい子。」を付け加えた。







・・・こうして、俺と凛との奇妙な生活が始まったのだ。