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あたし達の間には、緊張の
糸がピンと張り詰めてた。


息をつめて、真剣な表情で
ピエスに向き合う爽介。

少し離れた所で、同じく
呼吸も忘れて見守るあたし。


なんの音もしない。


作業をしてる爽介がたてる
音すらない、静かな空間。
静かな戦い。


そう――それはまさに
勝負の一瞬だった。


苦戦を強いられてきた
爽介の、最後の起死回生の
一手だったんだもの。



プライベートの爽介からは
想像もつかないような、
洗練された動きで、ボウルの
中のチョコレートを滑らかな
液体状にして。


それを素早く絞り袋に入れて、
天板とシートを敷いた上に
落としていく。

今度は、どこまでも丁寧で
繊細な動き。


爽介が手を動かすと、
まるで魔法のように、
シートの上に幻想的な
チョコレートの格子が
形作られていく。


それを、あたしお手製の
型に張り付けていって、
冷蔵庫でよく冷やしてから、
再び取り出す。


……ここまでが、今晩
進めてきた一連の作業。