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「あー、やっぱダメか」


調理台に落ちて壊れた
チョコレートのパーツを
拾い上げて、爽介が
悔しそうな声をあげた。


「やっぱりムリかな?
デザイン変更する?」


厨房の片隅で椅子に座ってた
あたしは、見かねて
遠慮がちに聞いてみる。



――爽介が閉店後の店の
厨房で試作品の練習をする
ようになって、今日で4日目。


実際に自分の目で見て
ようやくわかったけど、
この、チョコレート・ピエス
モンテを造るっていう
作業は――想像以上に、
大変だった。


ちゃんと仕上がったデザイン
画があっても、それを忠実に
形にできるかは、全て
パティシエの腕次第。


ごくわずかな硬さや重さの
違いで、うまくいかなければ
容赦なく形は崩れちゃうし。


繊細な模様の部分なんかは、
溶かした液体状のチョコを
絞り袋に入れて、まさに
絵を描くように形作るんだけど。


これを折れたりしないように
オブジェの中に組み込んで
いくのは、相当集中力の
いる作業だった。