ちょうどロッカールーム
から出てきたのかな。


ここは狭いんで、雫の横を
すり抜けるように咲希と
縦一列になって通り過ぎ
ようとしたら。


ちょうどあたしが真横に
来た時点で、立ち止まった
ままだった雫が思いがけず
声をかけてきた。


「望月さん、ちょっと
聞きたいことがあるんだけど」


「――――え?」


聞きたいこと?

……雫が、あたしに??


目を丸くして足を止めた
あたしを、咲希も振り返って
『?』の浮かぶ顔で見てる。


でも、あたしにだって
さっぱりわかんないわよ。


パティシエールの雫とは、
仕事で絡むこともまだ
あんまりないんで、挨拶
程度しか話をしたこともない。


名前呼ばれたのだって
きっと、今が初めて。


そんな雫があたしに聞きたい
ことって、いったい――?


「まだ休憩よね?
少し、時間もらえない?」


口調は普通なんだけど、
その目にはなんか有無を
言わせない強さみたいのが
あった。