紹介状の紙を見ながらあたしは信じられない気持ちだった。


「あなたの症状は自律神経失調症の可能性が高いので、心療内科に行って下さい」


自律神経失調症?
あたしが?何でだろう?


紹介された病院へ恐る恐る行くと、おじいちゃんな先生が笑顔であたしを迎えた。


「おや、美人さんがきた」

あたしにゆったり座れる椅子に座るように先生が言った。
あたしの後ろにはこれまた気の良さそうな看護師さんが笑顔で立っている。


先生はあたしに色んな事を質問した。


家族はどんな人?

友達といる時は楽しい?


世間話みたいな質問にあたしはボソボソと答えた。


質問に答える度、何かをメモしている。


「今までで一番悲しかった事は何かな?」


一番悲しかった事?


脳裏に浮かんだのはヒロの笑顔。
そして、お葬式の帰りに泣きながらビールを飲むあたし。


あたしが絶句していると、老眼鏡から先生があたしを覗いた。


「言えない?」


喉がカラカラに乾く。

何か言わなきゃ…


「友達が…」

張り付いた喉から無理矢理声を出す。


「死んだ事、です」


「ふーん、何歳の時?」


「は…二十歳…」


先生はしばらくあたしを見てから淋しそうに笑った。

「それは辛かったねぇ」




そうだよ…
辛くて、辛すぎて思い出さないように決めた。


ヒロを想うと涙が出て、立ち直れなくなる。


だから忘れようと誓った。