<side 伶>
何だろう。このイライラは。
無性に腹が立つ。
「体のあちこちにかすり傷はあるけどまぁ、問題なさそうね。」
「そうですか。有難うございます。」
信頼できる腕を持ち、すぐに動かせ、口の堅い医者なんてそうそういるはずも無く、結局俺は佐藤さんを呼びつけた。
あとから皆川さんたちも呼ぶ必要もあるだろうが今はいい。
佐藤さんはいやな顔をしながらも診察をし、その経過を報告しに俺の部屋に来ている。
神野は佐野和人と一緒だ。
「気に食わないって、顔に書いてるわよ。」
「だとしたらあなたの目は相当な節穴ですね。」
部屋の主である俺よりも偉そうな態度。
佐藤さんは昔からそういう態度だったから今更咎めもしない。
もっとも、俺だって人のことが言えない程度には偉そうだ。人のことは言えない。
そんな佐藤さんは面白そうに俺を見つめて…いや、観察していた。
「そんなに深青ちゃんが大事なら、ほかのところにやらなきゃいいのに。」
「…それができれば、最初から苦労はしませんよ。」
「あんた、めんどくさい男だったのね。」
一瞬、殺意がわいたが黙っておいた。
自分で一番解っているのだから。
そう、わかっているのだ。
自分が面倒くさい男だなんて。神野に会ったときから。解っていた。


