「医者を呼んだ。じきにくる。」
私と和人の目の前に立って不機嫌にそう言い放った。
一体なんなんだろう。伶は確かにいつも愛想は良くないけど、機嫌が悪いわけではない。
「それで、君は佐野 和人で間違いないんだな?」
「ちょっと、伶、どうしたの?」
私がそう聞くと、伶はそっぽをむいて別に。と答えてきた。
いや、別にって。そんなわけない。おかしい。
私が不審に思っていると、和人が律儀に伶の質問に答えた。なぜかこちらもあまり機嫌が良くない。
「きみの言うとおり、俺は佐野 和人だ。深青とは高校の同級生。大学2年生の生物学部。残念ながら身分証明ができるものはない。」
「その必要はないな。君の身分証明書は君が車から降ろされた場所に落ちてた。おそらくわざと落として行ったんだろう。まぁ、予想通りといえば予想通りだな。」
「予想通り…?」
和人がわけがわからないといった感じで私を見る。
私はどこから説明しようか。そんなことを考えていると、伶がこたえた。至って不親切な内容で。
「諸事情があって佐野さんと佐野さんの恋人の行方を調べていた。そしたら死体やらなにやらが出てきてめんどくさいことになった。しかし察するに君は大してこの事件に関して関係ない。ならば簡単だ。殺されるか解放されるか。」


