「うん。和人は…ってそうでもないか。」
「そりゃ、誘拐されて元気なやつはそういないだろうな。」
「それもそうだね。」
再び、沈黙。
私は気まずさをごまかそうと和人の座っている客室用ベッドに座った。
位置は和人のとなり。
懐かしい気配。
私はゆっくりと伶について話す。
「さっきの男の人は八雲 伶。この家の主で、私の家主。同じ大学の経済学部で、
同じサークル仲間。ちょっと変人だけど、親切。」
「八雲の御曹司か。」
「そう。さすがに和人は知ってたか。」
「深青は知らなかったんだろ。」
「う、まぁ、ね。」
「お前は昔からそういうことにかんしては疎かったからな。恋愛ごとについても然りだが。で?深青、今はどこに住んでるんだ?皇奏の学生寮じゃないのか?」
「あ、今はここに住んでる。いろいろな事情でさ。」
そのいろいろな事情も話した方がいいのか考えていると、伶が不機嫌な顔で部屋に入ってきた。


