和人の家…?
どうしていきなりそんなこと。
伶はやっぱりなという顔をして資料をめくる手を止めずに言った。
「佐野 和人の家は古くからの茶道の旧家だ。」
は…?
「和人の?実家が?」
「そうだ。ちなみに佐野っていう名字は母方の旧姓だな。本名は珀泉 和人(ハクセン カズト)。」
「えぇっ!?」
名字までごまかしてたの和人!
私は付き合っていたとはいえ、お互いの深いところにはつっこまないというルール(別にいつ決めたとかじゃないけど)を破りはしなかった。
和人を信頼していたし、もちろん、和人はその信頼を裏切るような人間ではなかったし。
そして伶はいつものごとくあきれたように溜め息をついた。眉間にシワがよる。
「まったく、君のその人付き合いのポリシーには魅かれるところもあるが随分と不用心すぎないか。」
「不用心?」
「不用心だろう。大して深く知っているわけでもない男と付き合うだなんて。人付き合いにおいては君のその一定の距離とやらはおいていてくれて構わない。だが、付き合うとなれば、また別の話だ。」
分ってる。そういいたかったがやめておく。
倍になって返って来るに違いないのだ。


