<side 伶>



逃げられた。


この俺が。



俺は隣りでなんてことない顔して刑事に事情説明している神野をチラッと見た。


…佐藤さんにはたかれる。




「いいんですか?俺をそんな風に扱って。」


「あら、嫌味を言えるくらい元気なら別に平気でしょ?」




シレッとした顔で言う佐藤さん。


言いたい事は分ってる。


彼女はこう言いたいわけだ―余計な事は言うな―

特に、神野のことに関して。



つかず離れず。


一定の距離を置いて、


お互いの深いところには触らない。


決してそのルールを破らない。



もう、そんなことに嫌気がさした。



…―っていうのは単なる言い訳だ。



嫌気じゃない。


好奇心も少し違う。


なら、これはなんていう気持ちから来ているのか。



俺は答えを知らない。