『怒ってる?』


開口一番に彼女はそう言った。

といっても声で伝えるのではなく、脳に直接語りかける話し方。

器のもうない彼女には音声で伝えるすべはない。



「……怒られるようなことをした覚えがあるのか?」

『え、え~と~。そんなつもりじゃなかったんだけど、
 沙耶ちゃんの言葉無視していろいろやっちゃったから怒ってるかな~って』


そう言って、エヘっと人差指を頬にあて小首をかしげてみせる。

それは彼女がごまかす時によく使う得意技。

もういい年なのだが、そのしぐさが似合うものだから性質が悪い。

はあ……

もう、彼女相手に何度ついたかわからない溜息をまた漏らす。


「とりあえず、手紙を送ってる相手があるなら住所の控えか何か置いておきなさい。
 連絡できなかったでしょうが」

『え、あれ? 置いてなかったっけ?』

「なかったわよ。実家の住所しか」

『あらら~。でも、ほら、吉乃ちゃんに最後に宛てた手紙にはアパートの住所書いておいたから大丈夫でしょう?』

「……そんなもん、書かれていなかったわよ」

『え、え? うそ~~?』

「嘘じゃない。そのせいで先方はわざわざ興信所まで使って突き止めたらしいわよ」

『あっちゃ~~』

「なにがあちゃーよ。彼らに私を押し付けるくせして、その最初で迷惑かけてどうするの。
 下手したら私が孤児院行った後に、彼らが来ることになってたのよ。
 まったく、貴女は詰めが甘い」

『あはは~。ごめんね~。沙耶ちゃ~ん』

「私より、彼らに謝りなさい」

『枕元に立てばいいのかな~?』

「……私のいい方が悪かったわ。天国からごめんなさいって言っておきなさい」