あまりいい思い出にはならなかったけど、理華にとっては一歩前進できた夏だったのかもしれない。

旅館の前まできて、奏美は先輩にジャケットを返した。

「ありがとうございました。」

「いいえ、どういたしまして。それじゃまた。」

「はい、おやすみなさい。」

部屋に戻ると、大人たちの宴会は続いていた。

剣の姿を探してみたものの、お風呂に行ってしまったみたいで、部屋にはいなかった。

「私たちもお風呂行こうか。」

「そうだね、少し冷えたし。」

今夜は言葉少なめにお風呂に入り、旅行最終日は、お土産を買ったりしてあっという間に終わってしまった。

剣と奏美は、なんとなく気まずかったけれど、親たちに何も悟られないように振る舞っていた。