「わあ、お花がいっぱい」


久々に村の外へ出た奏は、道端にたくさん咲いている花を見て喜びます。


「このお花、鹿さんに似合うかも……」


そんな奏を後ろから愉しそうに見つめる紫水。

彼はしゃがみ込んで花を摘む奏に背後からそっと忍び寄ります。

そして……。


スッ。


一気に距離を縮めた紫水は少し乱れていた奏の髪を優しく撫でて整え、奏が今し方摘んだばかりの花を耳の脇に添えました。


「……え?」


驚いた奏は手にしていた花を落としてしまいまいます。

それにも構う様子もなく、紫水は柔らかく微笑みました。


「フフッ。

君もよく似合うね?」


「……あ、ありがとう?//」


紫水のきれいな笑顔を正面から受け止めて、奏は赤くなりながらもお礼を言いました。


「こんな野花なんかじゃなく、薔薇の方が君にはもっと似合うと思うけどね」


表情を変えずに黒い発言をする紫水。


そんな紫水の言葉に奏が内心首を傾げていたことは誰も知らないのでした。


(薔薇ってなんだろう?

美味しいのかな……? ←by 奏)