芽吹く前に

ケンタの親の話はいつも聞くに耐えなかった。
親父の暴力が激しすぎて、聞いても言葉に詰まる。
みんな、ケンタの親父の話題になると簡単に慰めるという事も出来なくなり、何も言えなくなる。だから、ケンタも親の話をあまりしなかった。

「マコト、給食だけ食べに来たんでしょ？」
ケンタが気を取り直そうとばかりに、ほほ笑みながらそう言ってくる。


「馬鹿か・・・お前が電話してきたから来たんだろ！
そんなこと言うなら、帰るぞ！」


「いや冗談だから・・・いないとつまんないから・・・」


「俺がいてくれる事に、感謝しろよ・・・」

ケンタは俺の顔を見て、どうしようもないという顔で笑っていた。

給食の配膳に並んでいると担任が別の教室から帰ってきた。
担任はヒステリックそうな痩せたおばちゃんだ。
でも、見かけとは違って、じっくり物事を捉える人だった。
そして、久しぶりの珍客を見つけ、険しそうな顔で近づいてきた。

「今日は何時に来たの？」

「さっき・・・」

「ちゃんと、ご飯食べてた？」

「まぁ、普通に・・・」

「まぁっ！その頭の色は何なの？」
その時、マコトが一番先に言われるであろうと思っていた質問がやっと来た。
先にそれを指摘しろよと思ったが、いちいちそこで反抗しても言い合いになるだけだから言い返すのはやめておいた。

「最近、食事がまともに取れなかったんで、栄養失調で茶色くなったんだと思います。」

「嘘をつくんじゃないっ！！」
担任は真剣に怒っていた。

「わかりました。お小遣いが貯まったら直してきます！」

「明日までに直しなさい。」

「無理だって・・・」

「直しなさいっ！！」

「わかったよ・・・直すよ・・・」

直すというと、担任は、また違う生徒のところに行ってしまった。
あれくらいの説教で済んでよかったと思った。
男の教師なら人気のない教室でやられたあと、坊主かその場で黒髪ということもあり得るからだった。