進路相談の日、薄暗い階段を上り自分の教室に向かった。

いつもと違う誰もいない雰囲気、コンクリートの壁、ツヤのある廊下。

誰もいなければ冷たいだけの暗いだけの寂しいだけの場所。

そんな、暗い雰囲気でも嫌じゃ無かった。

ここに独りじゃない、一人だったから。

教室で取り残されるている孤独は悲惨だ。

誰もいなければあんな気持ちにならない。

それが少し楽だった。


教室に着くと母が担任と向かい合ってすでに話しこんでいた。

教師がマコトが教室に入るのを見て、話しかけてきた。

「遅かったじゃん。
そこに座って。」

机が四つ密集していて、母の隣の席にマコトは座った。

何やらこれまでの行動を母と担任は話していたようで、その続きをまた話し始めた。

教室に来るといつものように話している人から目をそむけてしまう。

マコトは母と担任が話しているのを天井を見たり、横の壁を見たりして全く耳に入れなかった。

ただ、公立の高校は今の生活態度だと難しいという事だけは耳に入っていた。

ひとしきり話し終わると担任から進路についての話が振られた。

「マコト君、どこか行きたい高校あるの?」


「いや、考えてません。」


「どこか無い?」


「矢台工業とかなら・・・」


「矢台工業か・・・
今の生活態度だと難しいから今から改善できる?」


「無理です・・・」

マコトはみんなが受験勉強に真剣になっている場に長時間身を置くのは無理だと思っていた。
ここで勉強にもついていけず、ただ一点を見つめ続けるのは嫌だった。
改善とは普通の学生に戻る事で、今からその修正は不可能に思えた。


「じゃあ、矢台工業には行けないよ。」


(行けないのか・・・)

「じゃあ、行きません。
仕事します。」


「いや、仕事って言っても何やるの?
選べる職なんて少ないよ。」


「土方でもやって生活します。」