「…止めて下さい」
低く、唸るように向井は言った。
呆気にとられてぼーっとしていると、ハルは私の手をすり抜けて、一歩向井に近付いた。
「止めてって、何を?」
「こんな戯れを、です」
「そんなこと、向井に関係ある?」
ハルが意地悪く言うと、向井は悔しそうに下を向いた。
その様子を見て、今度は若菜ちゃんが続ける。
「…そうですわ。向井には、関係ないでしょう?」
「…いえ。あります」
向井は小さな声で、でも確かにそう言った。
「何で?何で関係があるの?」
畳み掛けるようなハルの問いに、意を決したように向井は答えた。
「愛しているからです。自分はお嬢を愛している。だから、誰にも渡したくありません」
一瞬、その場がしんと静まり返った。
けれど次の瞬間、さらにあり得ないことが起きて、私は度肝を抜かれた。