「うー、寒っ!」


神宮寺家から我が家に戻ろうと外へ出ると、辺りはもう真っ暗だった。

まだ北風とはいかないけれど、初冬独特の刺さるような寒さが頬に痛い。


さっさと帰ろうと、中庭を横切ろうとした時、ふと人影が見えた。



「向井…?」


この寒空の下、向井は1人立ち尽くして空を見上げていた。


何してるんだろう?


私は首を捻って近づいた。


「向井、何してんの?風邪引くよ?」


そう言うと、弾かれたようにこちらを見て、小さく頭を下げる。



「姉御…。今、ちょっと星を見てました」


「星?」



思いがけない答えに面食らって、それから私も向井に倣って空を見上げてみる。


「…わ。綺麗…」



確かに今日の空はとても綺麗。


真っ黒い布の上に何億個もダイヤモンドを散りばめたみたい。

思わず見とれていると、向井が言った。



「冬は空気が澄んでいるから、星がよく見えるんですよ」


「へぇ。向井って何気にロマンチスト?」


「いえ。昔を思い出していただけで。…自分は、ちょうどこんな星の綺麗な冬の日に、お嬢に命を救われたんです」