「お嬢って、若菜ちゃん?」
「はい。突然、勝負だなんて…。正直、自分も戸惑っています。お嬢は、普段はあんな我が儘を言うような方ではないのに…」
そう言った向井は、本気で困惑してるみたいだった。
確かに、若菜ちゃんは礼儀正しくて絵に描いたようなお嬢様。
その上、極道の娘としてのプライドを持っていて、決して我が儘娘というイメージではない。
でも…。
「それだけ、本気なんじゃないの?本気でハルのことを好きってことでしょ?」
「そう、なんでしょうね」
私が答えると、向井は何故か少し寂しげに頷いた。
「それにさ、私だって一度も会ったことのない人のところに嫁ぐなんて、絶対嫌だと思うし」
若菜ちゃんが言っていた。
親に決められた、顔もしらない婚約者。
そんなの私にだって耐えられない。
だからといって、ハルをどうぞと差し出すわけにもいかないけれど。
「とにかく、やるって決まったことは仕方がないし。その代わり、私は手を抜かないよ」