「…そんなんじゃないよ」
私が小さな声でそう漏らすと、オハナとノブは心配そうに顔を見合わせた。
余裕なんて欠片もない。
だからといって、どうすればいいかも分からない。
あの時、ハルが止めてくれたら。
ハルの婚約者は私だけだって言ってくれたら。
そんな風に考えている自分がとても女々しくて、いつもの自分じゃないみたいで、戸惑ったまま身動きが取れないだけで。
「とにかくさ、頑張ってね、サク!ハルの婚約者はあんただけだって、あの生意気なお嬢様に見せつけてやりな!」
「そうですよ!ハルくんの隣にいるのはサクさんじゃなきゃ!」
私を励ます2人の台詞に、無理矢理笑顔を作った。
ついこの間まで、婚約者なんて嫌だって言ってたのに、今はハルを若菜ちゃんに取られたくないと思っている自分がいる。
我ながらおかしなことだと思う。
そんな心の変化に、誰よりも自分自身が一番付いていけない。