アタシタチノオウジサマ

 リストカットはすぐに使用人にばれ、母へと伝わった。母はあたしを自分の部屋へ呼び出した。

「左手首、見せてみなさい。」

「…いやです。」

「どうしてこんなことしたの?学校でいやがらせでもされてるのかしら?だったらお母さんが先生に言うわよ。」

「何でもないから言わなくていいです。」

「さっさと正直に話してちょうだい。お母さんやらなきゃいけないことがたくさんあるのよ。」

 自分の娘より仕事の心配かよ。この時初めて、母に対する反抗心が芽生えた。

「仕事仕事って…そんなに仕事が大事かよ!」

「何ですか?口が汚い!」

「正直に話してやるよ!あんたのせいで学校でいやがらせされてる。それだけのこと!どう?これで満足?」



 あたしは家を飛び出した。

 そして、当てもなく走り続けた。

 とにかく、どこでもいいから知らない場所へ行きたかった。
 
 そして、誰もいない路地裏にたどり着き、そこに座りこみ、左手首を見つめた。

 悲しいけど涙も出てこない。