アタシタチノオウジサマ

「葵からだ。」


光さんはそう言いながら電話に出た。


「もしもし?うん、無事だよ。今、すぐ近くの公園にいる。うん。分かった。」


 光さんは携帯を閉じ、ほっとしたようなため息をついた。携帯にはミッキーとミニーのストラップがついている。これって普通、カップルが一つずつ持つやつだと思うんだけど…。


「葵、今から来るってさ。」


「そうですか。東野さんは無事なんですか?」


「うん。まあ、アイツにとってはあんな奴ら雑魚にしか見えないだろうからな。」


 光さんはそう言いながら笑った。口角の上がり方が整っていて、素敵な笑顔だった。こんなに良い顔で笑う人を初めて見た気がした。


「君は葵の友達?」


「え…どうだろう。あたしは友達のつもりだけど、東野さんには完全否定されてて…。」


「ふーん。でも、あんなに必死に助けたってことは、脈なしではないんじゃないかな?まあ、葵は素直じゃないからね。」


「光…さん?は東野さんとどういう関係なんですか?」


「タメだし光でいいよ。どういう関係かねぇ。まあ、仲間ってとこかな。俺は仲間以上でありたいと思うけど。」


 そう言って光はまた笑った。相変わらず綺麗な口角だけど、目が切なそうだった。


「片思いってことですか?」


「そんな感じかな。まあ、少しでも頼りにされるだけで嬉しいんだけどさ。葵って常に他人との間に一線引くからさ、そのオーラがはっきりと想いを伝えられない理由だな…って何で俺こんなこと喋ってんだろ?何かごめんね。」


「そんなことないです。あたしで良ければ力になりますし、悩みも聞きます。あっあたしのことは紫音って呼んでください。」


「分かった。じゃあ紫音。さっきも言ったけどタメなんだから、敬語やめろよ。」


「そうですね。」


 また使ったなーって笑う光の表情にあたしの胸はとくんと反応した。


 光のこともっと知りたい。


 そんな感情が湧きあがってきた。


 もっと会話しよう。あたしは次の話題へと口を開きかけた…。