大好き‥だよ。

『おはよう』

元気よく教室に入ると、俊チャンの机の周りにクラスの女の子が群がっていた。

『あっ!おはよう、結』

『ねっ、何あれ?華代、席に着けないじゃんね‥』

困った顔をしながら、ランドセルを横に掛けた。

『って、問題はそこなの?そうじゃないでしょ』

『えっ?』

質問の意図が読めなくて首を横に傾けていると「天然」って言われて笑われた。何度も何度も否定していると「じゃあ、今日はそういう事にしておく(笑)」って、全然分かってくれていなかった。少し怒った態度を示すと、私のご機嫌を取ろうと必死になって質問に答えてくれた。

『さっき結、指差しながら聞いたよね?何あれって』

『うん』

『さっきからずっとなんだけど‥。皆ね、俊君からのお返しを待ってるみたいだよ?』

『お返し?』

『ほら、今日ホワイトデーでしょ。だからさ‥』

『へぇ~』

華代と会話をしながら、目では誰が俊チャンの周りにいるのか確認していた。その中に居るはずの人を見つけるために。でも彼女は居なかった。

『ねぇ、華代‥由愛は?』

『由愛?そういえばまだ見てないね。そろそろ来るんじゃない?』

『‥そっか』

まだ来ていないと知って正直ホッとした。これから俊チャンを誘い出そうとしているのに、そんな所を見られたくはなかった。気合を入れて、その場に立ち上がった。

ガタンッ

私の所以外からも誰かが立ち上がる音が聞こえた。前の方からだ。

『俊、何処行くの~?』

『便所』

スタスタと軽快に歩いて教室から出て行った。「もしかして今がチャンス?」そう思ったら居ても立っても居られなくなり、日直当番でもないのに「職員室行って来るね」なんて嘘をついて教室を飛び出した。