大好き‥だよ。

突然の事に困惑を隠せないでいると、込山さんが声をかけて来た。

『緊張してるの?』

『へっ?』

一瞬、何に対して言われているのか分からなかった。暫く考えて、大会の事を言われているんだという事に気付いた。

本当は違うことで悩んでいたけど、周りの空気に圧倒され思わず「はい‥」と返事をしてしまった。でもすぐに嘘をついた事を後悔し、罪悪感から皆を見ることが出来ずにいた。返事をしたまま黙り込んでいる私を見て、あやす様な優しい声で話してきた。


『そうだよね。初めての大会だから緊張するよね。
実は私もね、去年は本当に緊張して、走る直前は足がガタガタ震えて上手く歩けなかったの。周りを見渡すと、全員私より速く見えて怖気ついちゃって‥

でもね、順番を待っている時ある先輩に言われたの。「私の分まで頑張って」って。

その先輩はね、本当は100に出場したかったの。その為に練習も本当に頑張ってて‥‥でも去年の今日、出場種目を発表されたのは200だったんだ。先輩の代わりに選ばれたのは
私だったの。

発表後、何度も種目を変更してくれるように原っさんに頼み込んだけど、代わることはなかった。その日以来先輩とは気まずくなって、大会当日まで一切言葉を交わすことはなかったのね。

でもね、そんな関係が続いてた先輩から「私の分まで頑張って」って言われたんだよ。これってどういう意味か分かる?「後悔しない様に思いっきり力を出し切って!」って意味だと思うんだ。

今回も同じだよ。
結チャンは希望種目に選ばれたけど、中には選ばれなかった人もいるの。緊張する気持ちも分かるけど、その人たちのためにも、もちろん自分の為にも持ってる力を発揮しないと。

その為にも、残り少ない練習に集中しないとね!!』

そう言って、私の背中をバシンっと力いっぱい叩いた。

痛かった。

背中じゃなくて「心」が‥。