大好き‥だよ。

練習場所に着くと、原コーチはペンで頭を掻きながら何かに悩んでいるようだった。ランニングをしている先輩と紙を見比べて、納得したかと思ったら、ため息をついて‥の繰り返しをしていた。

「今日って何かあったっけ?」原コーチの言葉を思い出しながら、いつものスパイクに足を入れ先輩達の元に近寄った。

なんか‥いつもと違う?

この時はそれ程気にならなかったが、練習が始まると先輩達を覆っているオーラが変わった。「やっぱり今日何かある!!」私は思い切って込山さんに話しかけた。

『込山さん‥何で今日の原コーチは、あんなに眉間にしわを寄せているんですか?』

『今日が何の日か知らないの?』

込山さんからは、いつもの余裕が見られなかった。可笑しい‥一体何があるの?

100メートルを走って、スタート位置に戻ってくる間にもう一度聞いた。

『込山さん、教えてください!!』

こんなに声を出しても原コーチは怒らなかった。ううん。それ以前に、私たちの練習風景を見ていなかった。

『ごめん‥今日が何の日か知らないって事は、もしかしたら2人が入ってくる前の話かもしれないね』

『えっ?』

私の顔を見てクスッと笑ったかと思ったら、すぐに顔を整え、まじめに答えてくれた。

『実は今日、誰が何の種目に出場するのか発表されるんだよ。だからだと思うよ。原っさんの顔があんなに険しいのは』

『そうなんですか。
先輩達の気合の入り方がいつも以上なのは‥』

『最後の悪あがきって所かな(笑)』

そうこう話しているうちにスタート位置に戻ってきた。その時にはもう、全員が走り終わっていたので2本目に突入した。

今日のスタートダッシュは、誰が見ても文句なしの100点満点だと思った。だから‥短距離に出場したいと思っている先輩には、絶対に短距離に出て欲しいと心から願った。

それから暫くして笛の音が鳴った。

『集合!!』

駆け足で原コーチの周りに集まった。