大好き‥だよ。

『靴を買う時って少し大きめの靴を選ばない?足の指が動くくらい緩いのとか』

『そうですね。その方が履きやすいですし』

『そうなの。履きやすいって理由で大きめの靴を選んじゃうんだよね。でもね、陸上をやるんだったら自分に合った靴を履かないといけないの。その条件が足の指が動かない事。それが一番ベストなの』

『足の指が動かないなら、私が今履いているサイズじゃなくても‥』

『そうかもね。でもね、1秒でも縮めたいって気持ちがあるなら原っさんの選んだスパイクを履いた方がいいわよ。私たちは、それを我慢して履いたからこそ成果が出たんだもん』

『皆ですか?』

『そうよ。確かに最初は痛かったわ。何でこんな想いまでしてって思った。でも、今となっては原っさんの言う通りにして良かったって思ってるよ。キツイ言い方をする人だけど、結果を残す人だから』

『そうなんですか‥』

その後は黙って走り続けた。

込山さんは体が慣れているからなのか、呼吸は乱れていなかった。でも、今日から練習を始めた私にとって、このランニングは鬼のメニューに思えた。とてもじゃないけど話しながら走ることは出来なかった。

ピピー

やっと原コーチの笛の音が聞こえてランニングが終わった。

『じゃあ、次はスタートダッシュの練習を開始する』

そう言って休む暇がなく次のメニューが始まった。酸素不足で、足の痛みなんて感じている暇がなかった。

それからも、100メートルダッシュ・50メートルバック・もも上げ等々数々のメニューをこなし、2時間弱の練習が漸く終わった。

『よし、じゃあ今日の練習はこれで終わり。お疲れ様でした』

『『お疲れ様でした!!』』

挨拶が終わると、倒れ込む様に芝生の上に寝転んだ。俊チャンも私の横で同じ事をしていた。

『疲れたね‥』

『うん。疲れた‥』

乱れた呼吸を整えていると、原コーチが私たちを上から覗き込んできた。

『どうする?辞めるか?辞めるんなら今言えよ。今言わないなら来週の火曜日も同じ時間に来るんだぞ。スパイクのお金もその時にに持って来い』

返事を聞かずに車の方へと歩き出した。

『どうする?』
『どうするの?』

声が重なった。

私たちの出した結論は一緒だった。