大好き‥だよ。

『先生のお説教が長いから‥』

『だよな。遅刻したら恨んでやる!』

教室を飛び出そうとしたとき「頑張れよ」たった一言だったけど、珍しく後押ししてくれた。びっくりして振り向くと、先生は再び寝ていた。

『なんだよ‥』

俊チャンは唖然としてそのまま下駄箱に向かって走り出した。私は「さようなら」と挨拶をしてから走り出した。


練習会場まで近道をしても25分はかかる。でも、遅刻しないで会場に着くには20分で行くしかない。私たちは一言も話さないでひたすら走り続けた。

歩行者用の信号機が点滅したときは、過去最速のタイムが出ているんじゃないかと自分でも感じとれるほど、足の回転が速かった。ランドセルを背負っていなかったら‥靴がこれじゃなかったら‥もっと早く走れたかもしれない。

練習を始める前に充分すぎるくらいの準備運動が出来ていた。そのかいがあって、会場に着いたときには体が温まっていた。

『俊チャン‥原コーチって‥あの人‥だよね?』

『たぶん‥』

一人だけ年老いていて、常に眉間にしわを寄せていて、いかにも‥

『そこの2人!こっちに来い!!』

『『は、はいっ!!』』

やっぱり思ったとおり。
この人がコーチだった。


『名前は?』

挨拶をしようとしたら先手を打たれた。なんか‥機嫌悪くない?私たち遅刻してないはずなのに。原コーチを分析しようと細目で見ていると「松浦です」と、俊チャンが先に名前を名乗ったので続けて私も答えた。

『桜井です。よろし‥』
『靴のサイズは?』

このとき瞬時に感じた事。それは「余計なことは言わなくて良い」という事。質問されたことに淡々と答えようと心がけた。

『俺、24です』

『あっ、私は22.5です』

それを聞くと、近くに停まっていた白い車の中から箱を取り出して、私たちに手渡した。

『松浦はこれ。桜井はこれを履いたら、スタート位置に集合な』

それだけ言うと、首から提げていた笛を吹いて、ランニングしている人を集めた。