「奈々〜夕飯作ろう?」
「うん!」
誰かに作ってもらうのは何年ぶりだろう。
母さんがいなくなってから…
俺は自分で作ってた。
まだ幼い小学生の時からだ。
父さんと母さんが離婚した時、俺は二人の前では泣かなかった。
親父は俺に当たるし、母さんは俺を捨てたような感じだったから。
一人で泣いてた。
小さい頃。
母さんが料理してると何作ってんの〜?とか。
学校の話を料理してるのに邪魔するように聞いてもらったり。
家族みんなが家族だった。
その頃は普通の男だったんだ俺も。
こうなったのはやけみたいなもの。
無理して笑ったり親父に気を使うのが面倒になった。
だから家庭崩壊。
ただ一緒に暮らしてる他人みたいにいつの間にかなってたから…
だから、奈々達の料理は楽しみだし嬉しい。
俺は人の優しさだとか忘れてた。
『父さんと母さんなんかいらない!』
幼い時、親父達の離婚が決まって言った俺の言葉。
たまにこうして思い出すと辛いから封印しなきゃな。
俺は辛さを消すかのようにタバコを取り出し、ライターで火をつける。
「あ、柚〜それだめだよ!入れたら…」
「あ〜悪い悪い♪」
少し心配だけど。
だけど…
エプロンをして、料理をする奈々の背中…
小さくて細くてか弱そう…
後ろから抱きしめたくなる。
料理で動く度、奈々のさらさらの長い髪が揺れる。
奈々に恋愛感情を抱いてしまった。
それは罪みたいだ。
俺みたいなやつが奈々といていいのか不安で…
だけど…
誰にも触れさせたくないし、誰かを好きになられるのは嫌だ。
いくら男苦手でも、何かあるかもしれないから困る。
俺はただ奈々を見つめる。
すると……
「悠紀…マジなんだな。」
「へ?」
俺は隣にいる雅也を見る。
「俺、お前を応援するし♪悠紀は女より大切な友達だからな〜」


